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( 1999年7月14日 開設 > 最終更新 2023年9月20日 )


東京発展裏話 #5
川の上に建てたデパート
〜東急東横店東館と渋谷川〜

(1999年7月15日 記)
(1999年10月15日 加筆修正)
(2002年7月14日 加筆修正)

 東京・渋谷駅と一体化して建っている東急百貨店東横店。東口に東急百貨店の前身・東横百貨店として現在の東館が建てられたのが昭和8年。その後、山手線を挟んで西館、南館が建ち、現在の姿になっています。

 さて、この東横店、東館には地下階が無いのをお気づきになったことはありますか。駅前(駅構内)の一等地を使う百貨店は、売場面積を確保するため、地下階を造り、売場やバックヤードを設けるのが普通です。実際、4年後に建った西館(旧玉電ビル。地上4階までが昭和12年、その上は戦後増設)は、地下階が存在します。
 東館が地下階を設けない理由は、ここの建物の下にあります。この東館の地下には、川が流れているのです。「渋谷川」という川をふさぎ跨ぐ形で、この建物は建っているのです。

東急百貨店東横店と渋谷川の位置図
東急百貨店東横店と渋谷川の位置図

 東急東横線の前身、東横電鉄の渋谷駅は、山手線と渋谷川に挟まれた場所にあります。ここの隣接地に百貨店を造ることになりましたが、山手線と川の間はせまく、充分な敷地が確保できません。そこで、川の対岸と合わせて、川をふさぐ形で建物を建てることになったようです。

 厳密にいうと、昭和12年の西館竣工・銀座線渋谷駅開設に併せて増設された東館の一部(銀座線ホームのある位置)には、川を避けた部分に地下1階が存在しますが、スペースや客用エレベータの位置の関係で、売場としては使われていません。

 この河川を跨ぐ建築ですが、通常、河川は公共用地のため、その上部には橋以外の建築物は建てられないことになっています。ここでは例外的に認められた様です。建物を駅施設として申請し、登記上は駅のガードになっているのか、あるいは河川部分に地上権を設定して建てているのか、この許可の詳細は不明です。ただ、鉄道省大臣も務めた東急グループの社長・五島慶太氏(当時)の政治的な力も働いたと思われます。渋谷川を管轄する東京都建設局河川部計画課中小河川係に問い合わせてみましたが、まだ現行の河川法も建築基準法もない時代のことで、詳細な経緯は分からない、との回答でした。なお、東館と西館を結ぶ山手線上の連絡通路(5階〜7階)は、ただの連絡橋ではなく、売場のある連絡「建物」です。これもつい10年前までは、国鉄線上の民有地利用に相当し、本来なら違法建築でした。これも特別許可の様です。現在は法律が緩和されたので問題ありませんが。

 昭和60年前後の改修工事で、東館の1階にエスカレータが増設されました。普通、エスカレータは床下に機器を埋設し、エスカレータの乗り口は売場の床面と同じ高さにします。ところが、ここでは床下の機器部分が埋設されていないため、エスカレータの乗り口は高くなっていて、数段の階段を上る「上げ底エスカレータ」になっています。やはりその部分の床下は掘れないのでしょう。

「上げ底エスカレータ」と「渋谷川を避ける地下鉄渋谷駅」
「上げ底エスカレータ」と「渋谷川を避ける地下鉄渋谷駅」

 建物北側、宮益坂、道玄坂の通り(現国道246号線の旧道)の地下には、東急新玉川線・営団半蔵門線の渋谷駅があります。ここは地下駅で、地下1層目と2層目がコンコース(自由通路)、3層目がホームという構造ですが、渋谷川と交差する部分だけ、地下1層目がありません。川は健在なのです。

 東横店東館北側、富士銀行の脇、「宮益(みやます)橋」のあった所から北へ、遊歩道が延びています。上流へ向かう渋谷川の流れの跡です。遊歩道左手に、渋谷区教育委員会が立てた「渋谷川」の説明板があります。渋谷川は現在、渋谷駅東口の高速道路の南側、「稲荷橋」から上流は暗渠化されて、雨水等を集めて今も流れています。

渋谷川の移設工事を説明するパネルが現地に設置されていました

2014年5月25日 追記

 平成22年(2010年)から始まった渋谷駅の再開発事業(渋谷駅街区土地区画整理事業)に伴い、デパート下に流れていた渋谷川も移設される事になりました。平成25年(2013年)には東急東横線の渋谷駅も地下に移転し、渋谷川をまたいで建っていた東急百貨店東横店東館も解体工事が進んでいます。その過程で、上の記事で「上げ底エスカレータ」が設置されていた辺りに、渋谷川の移設工事を伝える説明パネルが掲示してありましたのでご紹介します。

渋谷川移設工事の説明パネル
「この下に、いま渋谷川が流れています」と書かれた説明パネル。工事現場と通路を仕切る柵に貼ってありました。

渋谷川移設工事の説明パネル
渋谷川と現在地の位置関係(断面図)。この説明パネルの右側、通路が最も盛り上がっている部分が川を渡る箇所になります。

渋谷川移設工事の説明パネル
工事の概説。「現在東急百貨店の地下を流れている渋谷川を移設し、増水に対応する雨水地下貯留槽も新設することで、水害に強く安全・安心なまちづくりを実現します。」と解説されています。

渋谷川移設工事の説明パネル
渋谷川と現在地の位置関係(平面図)。現在の渋谷川の位置と、移設後の渋谷川のルートが描かれています。

渋谷川移設工事の説明パネル
断面図を拡大して撮影。

渋谷川移設工事の説明パネル
断面図に付属していた地下を流れる渋谷川の写真を拡大。

渋谷川移設工事の説明パネル
通路の様子。通路を横切る黄色い点字ブロックのラインから奥(そこだけ一段盛り上がっています)が渋谷川を隠す蓋の上になります。写真左側の上流・原宿方から右側の下流・恵比寿方へ向かって渋谷川が流れています。

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